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『古くて新しい』代謝 -発酵からメタボまで-

新着情報2018年07月31日

私たち生き物の体内では、膨大な種類の化学物質が、環境の変化に合わせて刻々と作られ、

壊されています。あるものは身体や個々の細胞を形作り、その形を維持し運動するための

エネルギー源となり、またあるものは遺伝情報を担っています。これらの物質は、いわゆ

る有機物と呼ばれる炭素化合物です。

 昔、といってもほんの20世紀直前まで、有機物は生物のもつ生命力という不思議な力

がなければ作ることはできないと信じられていました。Eduard Buchner(エドゥアルト

・ブフナー)が酵母をすり潰し、生きた酵母細胞が存在しない状態でも発酵(糖のアルコ

ールと二酸化炭素への変換)を起こすことができるということを発見したのは1896年のこ

とです。この発酵をはじめとする、生物の体内で行われる様々な有機物の変換を総称して

代謝と呼びます。代謝とは生命現象を支える根幹と言っても過言ではありません。

 以後、この代謝に関する研究が20世紀半ばにかけて飛躍的に進みます。数えきれない研

究者の努力により、いわゆる三大栄養素と呼ばれる糖質・脂質・タンパク質や遺伝子の本

体である核酸など主要な生体構成物質の分解、合成、相互変換の経路(代謝経路:物質A

→ 物質B → 物質C )が解明されてきました。そして、1980年頃には、代謝について

は大筋で調べ尽くされ、もはや第一線の研究テーマとしての魅力はなくなっていました。

 ところが、10年ほど前から一流科学誌上で、代謝に関する特集がしばしば組まれるよう

になりました。その原因の第一は、代謝が正常な状態から逸脱した病気・病態(糖尿病、

悪玉コレステロール増加など)への注目の高まりです。肥満にこれらの病態を伴った状態

が、メタボリックシンドロームと呼ばれるようになって以降の時期と重なります。ちなみ

に代謝は英語でMetabolism、つまりメタボリックシンドロームとは代謝全般に及ぶ病気

ということです。そして、メタボリックシンドロームの主な原因は、代謝経路そのものの

欠陥ではなく、その調節に生じた不具合にあると考えられています。原因の第二は、医学

・生物学研究の技術的な進展により、代謝調節の仕組みが徐々に解明されてきたことです。

これにより、新しい薬剤の開発の可能性が広がるからです。

 ここに至って代謝が研究テーマとして再び脚光を浴びることになったわけですが、なぜ

それほどまで注目されるのか?一例として肥満を挙げます。肥満とは、全身の脂肪組織に

脂肪が過剰に蓄積した代謝疾患といえます。よく知られているように、肥満は高血圧・糖

尿病・心血管疾患・がんへの罹患率を高め、現代社会でのまさに万病のもとです。脂肪代

謝の調節の仕組みが解明されれば、脂肪の合成を抑え分解を促す画期的な手段が発見され

るかもしれません。つらいダイエットや運動をしなくても、一日一錠この薬を飲めば肥満

が解消されるという薬(つまり、やせ薬)があったらどうでしょう?その薬がもたらす恩

恵(と売上高)は計り知れません。残念ながら、そのような薬が近い将来世に現れる可能

性は低いと思われます。しかし、その実現を夢見て、世界中の研究者が代謝の研究に邁進

しています。

                      (大阪医科大学生化学教室 矢野貴人)

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